大人だからこそ。生きていく上で、しっかり知っておきたい性教育のこと。

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大人だからこそ。生きていく上で、しっかり知っておきたい性教育のこと。

 

自己肯定感 -前編-

性教育の重要性が昨今取り上げられている中で、家庭内での性教育の需要も増えている。一方で、「性教育をわが子に何を伝えたらいいかわからない」と悩まれる保護者の声もよく聞かれる。その際私がいつも伝えたいと思っていることは、内容やHow toよりもどういう姿勢で接するかが重要であるということだ。性教育をわが子に伝える目的は何か。身の安全を守るため、というのも一つ。しかしそれ以上に大切なのは自分自身を大切に扱えるような自己肯定感を育むためではないだろうか。

「自己肯定感」が高いと言える日本人はどれくらいいるのだろうと、ふと思ったことがある。学校で正解が常に求められる教育を受けてきた私たちは、無意識のうちに日本人の「枠」の中で生きており、その「枠」から逸脱すると自分の欠点と感じてしまったり、他人から指摘されてしまったりする。私は、社会人になってから1年ほど海外で暮らしてみて、多様な意見が受け入れられること、間違っても構わないから自分の考えを言いたいという海外の友人たちの姿勢をみてハッとした。「多様性がそもそもある」ということが前提に成り立つ社会では、日本人であるということがその国では外国人であるにも関わらず、特別視されることもなく心地よかった。

今回は、「自己肯定感」について考えていきたい。ご自身のキャリアを充実させながら事業を行っているお2人の男性ゲスト(Tさん・Kさん)をお招きし、お2人の幼少期や現在に至るまでの体験を踏まえてお話しいただいた。そして、そもそも「自己肯定感」とは何なのか…、そんなことを考えながら読んでいただきたい。


Q.幼少期の頃などに自己肯定感が高くなった、または低くなったエピソードはありますか?

Tさん:自分の両親は看護師で親父はもともと怒らない人だったけど、自分がサッカーをやっていたからサッカーを教えるときだけ怒るんですよね。僕もサッカーやってたんですけど、それが嫌でサッカーから逃げて野球に行っちゃいました。怒られると子供も大人と一緒で自己肯定感は下がりますよね。でも、普段褒めない父親だったけど、陰で褒めるのがすごく上手だったんですよ。なので、母親から「お父さんこんなこと言ってたよ」って聞かされると、嬉しかったし自己肯定感が上がった。今は褒めて伸ばそうっていうのが主流になりつつあるけど、そうすると褒められることが当たり前になってしまうとそこに免疫がつきすぎちゃうんじゃないかなって正直思ってしまうんですよね。

Kさん:両親は学校の先生で、僕は勉強ができたんですよ。勉強は苦ではなかったし、親に言われる以上やりますって感じだったんですよ。そうなれたのは二つ上の兄の影響があって。兄が先に学んでいたことを何となく覚えていて、実際に学校で自分が習う時には既に何となく知っていることだったので理解が早かったんです。こんなにも勉強頑張ると大人たちが喜んでくれるというので、調子に乗れたんだと思います。一方で、兄弟でやっていた器械体操については圧倒的に兄の方が上手かったんです。今でも兄は運動が得意で、僕は勉強が好きですね。
 母は小学校の先生で、父は音楽の教師だったので、勉強がだめなら運動ができればいいといった感じでそれぞれの褒めるポイントが均一化しないことが良かったんだと思います。

TさんKさんの共通点としては、自分がした行動に対して、親が褒めてくれたことや喜んでくれたことが幼少期の自信に繋がり、自己肯定感が上がった点であろう。褒め方は親自身の性格やその子供の置かれている環境などによっても違うかとは思うが、褒めていることや評価していることが子供本人に伝わることが重要だ。

 


Q.ご自身が現在の個人での活動や仕事をする上では、自己肯定感がある程度ないとできないと思うのですが、どのように自己肯定感をマネージメントしているのですか?

Tさん:自分の仕事(本業)以外の活動では、自分の性格をわかってくれている人を周りにおいているので、そこで「仕事速いね」とか「なんでそこまでできるの?」とか言ってくれることで、通常の仕事もうまくいっています。褒めてくれる場所は一つじゃなくて、何か所も作っておくいいと思っていて、それが課外活動の場でもいいと思っています。

Kさん:一つは苦手なことから離れたことですね。僕は今独立して仕事をしていますが、独立した理由は、会社員がだめすぎたからというだけなんですね。会社員時代は営業をしていたんですけど、営業成績2度最下位をとるくらい仕事ができなかったんです。前職は転職を扱う仕事をしていたんですが、転職してすごく花咲かす人もいますけど、多くの人が環境を変えてもしんどい人の方が割合としては多いと感じていたんです。だから自分も転職では変わらないだろうと思って独立を選んだんです。それで自分でいろいろやってみてこれが得意そうだぞというところを今伸ばしているところですね。自分の変えられない部分を変えようとすんじゃなくて、環境などの変えられる部分を変えることにフォーカスすることに気づきました。今は苦手なことから離れて得意なことだけをすることで自己肯定感が上がっていると思います。
二つ目は、会社員としては仕事が出来なかったけど、かといって自分に対する自分の評価は低いとは思わなかったんです。多趣味だったからそこで認められたっていうのはありますね。自分の居場所をいっぱい作って、自己概念を投資のポートフォリオみたいな感じで、ここの自分うまくいってないけど、趣味の自分はどうだ?恋愛の自分はどう?って、自分を支える柱を作っていってましたね。



ここまでインタビューをしていて、自己肯定感という言葉は多方面的に使われているのではないかと感じ、改めて定義を見てみることにした。しかし「自己肯定感」という言葉自体の定義は明確なものはなかった。いくつか文献をあたる中でわかりやすく「自己肯定感」を解説しているものの一部を紹介する。 自己肯定感の概念には3つの側面があるそうだ。1つ目は、勉強やスポーツなどを通じて、自らの力の向上に向けて努力することで得られる達成感や他者からの評価などを通じて育まれる「他者評価などに基づく自己肯定感」。2つ目に、自らのアイデンティティに目を向け、長所のみならず短所を含めた自分らしさや個性を冷静に受け止めることで身に付けられる「自己受容に基づく自己肯定感」。そして3つ目に、保護者等から愛情を受け、自分が無条件に受け入れられているという経験を積み重ねていく中で得られる「絶対的な自己肯定感」である。



「他者評価などに基づく自己肯定感」は、長所にあたる部分のみが評価されるのに対し、「自己受容に基づく自己肯定感」「絶対的な自己肯定感」は、長所短所に関わらず、自らの全存在が肯定されることにより、自己肯定感が育まれる。さらに言えば、「絶対的な自己肯定感」は乳幼児期の関りがベースとなり、「自己受容に基づく自己肯定感」は、アイデンティティを形成し始める青年期の体験が基となるという。(竹内,2017)
どの自己肯定感も重要であるが、保護者等に委ねることになる「絶対的な自己肯定感」がもっとも難しいと感じる。なぜなら、保護者からの愛情を得られない状況にある子供たちもいるためである。その際には周りにいる大人たちがそのことに気づき、愛情を持って接し「愛される経験」の代替となりうる経験を積み重ねることが重要である。また、保護者自身が愛情を注ぐ余裕がない環境にある場合もある。その場合はその保護者への支援として経済的、時間的、精神的な余裕を持てるようにしていくことが不可欠となる。
一方で「他者評価などに基づく自己肯定感」は、Kさんの言葉をお借りするならば「投資のポートフォリオのように」多角的に他者からの評価や他者との評価をすることでマネジメントすることが可能である。そして、「自己受容に基づく自己肯定感」は自分自身を知ることで受容することができるため、人間関係や価値観、身体のことなどを学ぶ国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づいた包括的セクシュアリティ教育が有効であろうと考える。
お招きしたお2人の男性は、事業を進めていくうえでも多くの自己分析をされており、今回のインタビューを快諾してくれた。限られた機会でしか話すことがないトピックであると思うが、読者の方もご自身は3つの側面の自己肯定感についてどのような体験をしたか思い起こしてみてほしい。そして、自分のエピソードとお2人のエピソードとの違いを感じてもそれはご自身の大切な体験として比べることなく受け止めてほしい。

参考文献:竹内健太「子供たちの自己肯定感を育む―教育再生実行会議第十次提言を受けて―」
立法と調査,No392(2017.9)

2022.10.25 UP

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Kana Masutani
助産師。産婦人科クリニック勤務の傍ら、すべての人が自分を大切にできる選択肢を持てるよう包括的セクシュアリティ教育の学びと実践を行っている。