大人だからこそ。生きていく上で、しっかり知っておきたい性教育のこと。

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大人だからこそ。生きていく上で、しっかり知っておきたい性教育のこと。

なぜ性教育?広く全般に性教育ってどんなこと?/ 528magazinzeで発信するワケ

「性教育」という言葉のイメージをどう皆さんは捉えているだろうか。「教育」という言葉がついていながらここまで大々的に学ぶことがタブーなイメージがあったりネガティブな印象がついていたりする教育分野も珍しいだろう。  昨今、朝の情報番組や深夜のトーク番組、さらにはママ世代をターゲットとした女性誌などで性教育の特集が組まれるようになってきた。また2025年までには、フェムテック世界市場の規模が5兆円に迫る見通しとされている。どうやら「いやらしい」「性のことを語るのははしたない」という性のイメージが変わってきていると感じる方もいるのではないか。
しかし、性に関わることを強く発信しているものには、LGBTQや女性の視点が多く、男性が性について語ったり、学べたりする機会というものがないように見受けられる。そのため、性のことについては3人に1人の割合で、さらに泌尿器科のことについては2人に1人の割合で男性の場合「相談する相手が誰もいない」という。(①データより)また、男性が性に関する情報について得る際は友人やアダルトサイト、インターネットにアクセスすることが多いのが現状であり(②データより)、その情報が正しいと刷り込まれていることにも課題があると感じる。性的嗜好と性の科学的な知識というものは全く別物であり、性的嗜好だけを追い求めていくということは、無免許で高速道路を突っ走るくらい危険なことである。高速道路を運転したいのであれば、教習所で一通りの基礎を習うことが必要であるように、性に関することも基礎的な最低限の知識が誰でも必要なのである。このコラムでは性に関することを率直かつ忖度することなく、男性ゲストに話していただいた内容を交え、性に関することを男性にも受け取りやすい形で発信したい。

データ①
データ②

Q. 性教育についてどんなイメージ?
A.もともと女系家族だったのであまりハードルはなかったんですけど、とは言え母親や家族間ではそういう話しはしなかったです。あとはやっぱり話してはいけないようなタブーな話という昔の人の雰囲気はありましたね。昭和のテレビって下品なものもあったじゃないですか。クイズ番組でコンドームという解答があったときに両親に聞いても笑って教えてもらえなかったんです。で、中学くらいになってあとあと知った感じですね。  あとは学校では、男子・女子で分かれて、性教育の時間があって。そもそも女性のことについては聞いてはいけないって雰囲気がありましたね。  ただ、自分はちょっと特殊で高校から海外で。海外ではオープンに話してましたね。でももともとのベースが聞いちゃいけないことというのがあったのと、男性の間で話す面白話題みたいな感じなのは(日本人の)自分たちの世代には染みついていると思います。  性教育について男性は自分のタスクではないよ、ってなる感は強いですね。

性に対する認識は社会の人権に対する認識に直結する。2030年を年限とするSDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。教育、ジェンダー平等、健康や福祉における開発目標を実現するためには、政府の改善すべき課題も多く残るが、まずは個々人の認識を今一度見つめなおす時期にあると感じる。そしてSDGsを実現するために性教育の認識を変えることは必須だ。 性教育はその国々によって扱われ方が大きく異なる。性教育の充実度と比例してジェンダーギャップ指数などは高い傾向にある印象だ。性教育には科学的根拠などがないと思う方もいるだろうが、実はユネスコが発行している「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(以下ガイダンス)」という性教育のガイドラインのようなものがある。ガイダンスには世界中の性教育に関する研究を集め性教育として行うべきキーコンセプトとその項目の深め方がまとめられている。
キーコンセプトは、①人間関係②価値観、人権、文化、セクシュアリティ③ジェンダーの理解④暴力と安全確保⑤健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル⑥人間のからだと発達⑦セクシュアリティと性的行動⑧性と生殖に関する健康、の8つに分類される。性教育は学校の保健体育の授業で習うものという認識も強いが、実は生活の中で大人になっても学ぶものが多く、特に人間関係や健康とウェルビーイングのためのスキルなどは、その時の自分の年齢や立場などによって大きく影響される。生殖機能に関することだけでなく、それに関わることを包括的に学ぶ教育を「包括的セクシュアリティ教育」としている。



Q.男性が女性の月経に関することに触れるのはやはりハードルが高い?
A. 生理は男性が自分で体験するものではないから、どうしても二の次になってしまう。彼女とかいると月経周期があるとか基本的なことはわかるようになるけど、やっぱりオープンな場では性のことについては話さないですね。  子どもたちに話しているプライベートパーツのお話しとかそういう基本的なところから大人も学びなおす必要があると思いますね。女性のことを理解しようと思ったら、生理周期のこととか生理のしくみとか知ることから、女性に対する声掛けとかがわかってきて、それが浸透すると会社とかでも男性社会的な部分が少しずつ変わってくると思いますね。

「包括的セクシュアリティ教育」は日常の生活でどんな効果をもたらすのだろうか。男女関係なくお互いの身体の特徴を知ることはその人との関係をスムーズにする。まずは家族やパートナー、身近な異性の理解というのが最も感じられる効果だろう。お互いの体調や身体についてコミュニケーションが取れるようになると思いやれる範囲が一気に拡大する。外見からわかるような身体的障がいを持っていると、その人がどのような支援を必要としているかなど想像しようとするが、実は健康な人であってもそれぞれの身体の違いがあり、その日の体調の違いがある。当たり前のことだが忘れがちであり、例えばチームで仕事をしているのならば、メンバーひとりひとりの特徴や仕事のパフォーマンスについて考えていくことは、良いチームを作るために必要なことである。特に女性はホルモンの影響を生涯にわたり受けやすい。女性の生理に伴う体調不良による1年間の社会経済的負担は、経済産業省によると6,828億円にものぼるそうだ。(※Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y et al. Med Econ 2013; 16(11):1255-1266より)
女性が働くことが当たり前になりつつある現代社会において「生理」は女性だけの課題ではなく、社会全体の課題ととらえなくてはならない。

2022.06.11 UP

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Kana Masutani
助産師。産婦人科クリニック勤務の傍ら、すべての人が自分を大切にできる選択肢を持てるよう包括的セクシュアリティ教育の学びと実践を行っている。