Newbe(ニュービー)が注⽬する起業家やクリエイターをゲストに迎えたインタビューコンテンツ

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PROFILE髙⽊ 鎮廣(たかぎ・のぶひろ)
第⼆弾は、1930年に奈良で創業したインナーメーカーである株式会社タカギの専務取締役として、⼀度は傾いた⽼舗メーカーの⽴て直しに尽⼒し、より良い社会のために⽇々奮闘する髙⽊鎮廣さんが登場。強い好奇⼼や興味を原動⼒に新たな分野にどんどん挑戦してゆく彼のこれまでの軌跡や未来を語るコトバから、その瞳に映る世界を覗いてみよう。

Episode.02

まず最初に、髙木さんのお仕事について教えてください。

タカギという、サニタリーショーツをメインとした女性向けのショーツ・肌着を企画・生産・販売している会社で取締役として働いています。取締役といっても、実際は「何でも屋」。一番のメインは営業の代表として、数字の取りまとめや実際にお客様のもとへ出向いて営業活動をしています。他にも会社の法務関係をまとめて弁護士さんに相談したり、社内システム構築のためにシステム会社さんと打ち合わせしたり、テレワーク用のノートパソコンの手配までやっています。あとは、立ち上げから関わるオウンドメディアの「ツキとナミ」の運営に注力しています。本当になんでもやっているので、何が僕の仕事と答えたら良いのか……これは最近の悩みでもありますね(笑)

本当に幅広い業務を担当されているんですね!タカギで働くまでの経緯についても教えていただけますか?

社会人になって最初の2年は、エンジャパンという求人の会社に勤めていました。その時に半導体など、パソコンやスマートフォンの頭脳を開発されているクライアントを担当することが多く、色々と話を聞くうちに興味を持つようになって、半導体製造装置メーカーに転職しました。そこでは営業として、国内の半導体大手メーカーとの取引や、海外市場で自社製品のプレゼンテーションなどさまざまなことにチャレンジさせていただきました。その中でも大仕事だったのは、新規事業の創出をするように、という創業者会長の命を受け、紆余曲折を経て、「胸腹水濾過濃縮装置」の開発をスタートさせたことです。

「胸腹水濾過濃縮装置」とは一体なんですか?

膝に水が溜まるって聞いたことがあると思うんですけど、同じような症状で、お腹や肺に水(体液)が溜まる病気があります。多い人だと10リットルも溜まることがあり、とてもしんどいんです。溜まっているなら体外へ出せばいいと思うかもしれないのですが、これが意外と複雑で。体液の中には悪い成分だけでなく良い成分も混ざっていて、それが急激に減ると患者さんが苦しくなってしまうので、これまでは一度排出してから点滴で良い成分を体に戻すようにしていました。しかし、排出時にフィルターで成分を濾過して悪い成分だけを排出し、良い成分だけを体に戻したら、体への負担も減るのではという視点で、新たな医療機器を開発することになったんです。もちろん経験も知識もなかった分野ですが、この装置を開発することで多くの患者さんを助けたい、という医学部教授との出会いにより、一緒に開発をすることになりました。

そんな特殊なお仕事をされていたのですね。どのくらいの期間携わっていたのですか?

2年くらいでしょうか。最初は、ノーベル物理学賞受賞の青色LEDが発明された場所の一つである徳島で、LED関連の装置や技術を開発しようと考え、県庁や大学の先生たちへ提案していました。半年くらい色々な方とお話しする中で、医学部教授と出会い、国へ開発の為の補助金を申請したのち、1年くらい開発してという感じでした。当時は関西と徳島を往復する日々で、昼過ぎから打ち合わせが始まったかと思ったら、なんやかんや深夜1時過ぎくらいまで打ち合わせし、そこから資料をまとめてからまた朝出社してというとんでもない生活リズムでした。実際、下を向くと鼻血が止まらなくなったりしていました(笑)。

かなりハードな毎日ですね。そこからタカギへはどのように繋がってゆくのですか?

タカギはもともと妻の実家なんです。妻は代々続く家系の三姉妹の長女として育ち、2014年に僕が婿養子として髙木家に入りました。当時はちょうど開発の仕事にゴールが見えてきたタイミング、同じ頃に彼女から経営が芳しくないという話を聞いてタカギに入ることを決意しました。色々と引き継ぎを行い、本格的に入社したのは2015年です。

そのような緊急事態の中で入社されたとのことで、期待も多かったと思うのですがいかがでしたか?

実際に社内のいろんな方とお話しさせていただいて最初に感じたことは、タカギの人たちはみな仕事熱心で、真面目で良い人ばかりということ。じゃあどうして赤字なんだろうと本当に不思議でした。

どういうこところが原因だったのでしょうか?

色々と調べてゆくと無駄が多かったんですよね。あとは数字の管理。例えば、営業担当の方が報告する数字の増減に対して、誰も突っ込まない。「なんで売り上げが減っているんですか?」とか、「何が問題ですか?」ということに対して疑問を持たない空気になっていて、赤字になっても計画通りに進まなくても見過ごされてきていたんです。開発面でもそうですね。タカギはこの業界でパイオニア的な存在なので、世の中にない生地や商品を作ろうという気合がすごいあって。それはすごく良いことなんですけど、具体的にどこを目指しているのかが分からないまま、無計画にどんどん糸を買ったり生地を作っていたんです。だから僕が最初にやったのは目標までの計画を立てて、順番や管理の仕方を整理するということ。社員の皆さんと色々と策を講じた結果、翌年には黒字に回復することができました。以降5年連続で黒字を出すことができ、クライアントにも恵まれ、今は新たな挑戦を日々させていただいているという状態です。

すごいですね!今年も新しいブランド「ayame」がローンチしたりと常に進化されていますが、タカギの今後のビジョンや目標についてもお伺いできますか?

今までは物にこだわって、作って売るというところに力を注いでいたのですが、数年前からは発信にも力を入れるようになりました。やはり、良いものを作るからには自分たちでしっかり「良いものを作ったよ」と発信しないといけない。外部のメディアだけでなくオンラインショップやオウンドメディアを通して、ブランドを認知いただく機会を広げていきたいと思っています。その一環として、先ほども少しお話ししたオウンドメディア「ツキとナミ」を2021年3月にローンチしました。また、CSR活動として、小学生たちに生理の正しい知識を伝える「HAPPPY プロジェクト(3つのP=Peaceful、Precious、Period)」といった新たな活動を3年前から始めています。今まではいちサニタリーショーツメーカーとして認識されていたイメージを、より良い社会づくりに貢献する会社とか、女性のお悩みに寄り添う会社なんだって、認められるようにしていきたいと思っています。

90年余りの歴史を持つ企業の中で、舵を大きく切りながらこの数年でしっかりと結果を残されたのは本当にすごいことですね。

従業員の皆さんとしっかりとコミュニケーションがとれていることが理由のひとつかもしれません。働くうえでの行動指針などもなかったので、去年いちから作りました。僕ら経営陣が考えたことを押し付けるんじゃなくて、従業員の皆さんを職種別にチームにわけて、チームで考えて、プレゼンして、みんなで投票して決めました。自分たちで作ったルールだからこそ、しっかり守らないととか、目指さないとって自分ゴトとして日々行動を見直すことで良い方向に向かっていると思いますね。

前職も含めて、経験したことのない大役を任せられることが多かったと思いますが、今までで一番大変だったことはなんですか?

長く働いてこられたベテランの職人さんが、「やってられへんわ!」となって辞めてしまった時はすごく辛かったですね。かけがえのない豊富な知識や技術を持っていらっしゃったので。

このような考えのトップがいらっしゃるなんて羨ましいです。インハウスで全てを行うことは理想ですが、柔軟に考えて適材適所で助け合うことでまた新たな可能性が開けますよね。

そうですね。「どうしたら実現できるのか」、「どうしたら問題が起きないのか」をいろんなところで探し回ることが、僕にとって一番の特技かもしれません。

働き方とか問題解決の場面でのご自身の中のメソッドというのは子供の頃から持っていらっしゃたんですか?

確かに、子供の頃から常に誰かに助けてもらっていましたね。中学校の時は生徒会長をやっていたんですけど、名ばかり生徒会長で、発表とかだけやたらと前に出てくるタイプで、副会長や書記の子とかみんなに助けてもらっていました。僕の役割は、何かあったら責任をとって先生に怒られること、でしたね。そのかわり、何か新しいことにチャレンジしようみたいな感じでやっていました。今も昔も、問題が起きたら僕が矢面に立つのが役目として、みんなに助けてもらうというのが僕の仕事の仕方ですかね。

そのような精神性は大人でも難しいことだと思うのですが、どのように子供の頃から培われたのでしょうか?

昔からわからないことはわからない、できないことはできない。どうしたらできますかというのをいろんな人に聞いてきたからかな。知ったかぶりはせずに、わからないことはわからないって言うし、それ何?ってすぐに聞きます。そういう性分というか、どこでそれがそんな性格になったのか僕もわからないですけど(笑)。知りたがりなんですかね。なんでも興味持つし好奇心があるので、全然違う業界の方とお話しするのはとても楽しいです。

働き⽅や問題解決の場⾯で⾃⼰流のメソッドなどありますか?

問題を解決するための⽅法というのは、僕もよくわからないです。問題しかないから解決できているかもわからない し、問題を解決しているつもりではあるけど、本当にそれがベストな解決なのかと⾔われると必ずしもそうともいえな い部分もあると思っていて。現場の⼈たちの環境や⽣き⽅、問題を⼀緒に考えてあげられるかというのは本当にすごく ⼤事だなって思うんです。これは⽇本の企業とかでも⼀緒で、「今はゆとり世代だから〜」って上の⼈が⾔ったり、「世 代ギャップがあるから」っていうのもシンプルにコミュニケーションが⾜りないことが原因。お互いのやり⽅を押し付 けているだけで、そこにはすり合わせとかが絶対的に⾜りていないんからなんですよね。もっともっと⼩さいスケールで ⾔ったら家族でも⾔えるだろうし、思春期のいろんなこともあるだろうしって考えるとなんか仕事が云々ではなく、⽣ きる中ですごく⼤事にしていることがそれなのかなという気がします。

好奇心が強いというのは大きいかもしれませんね。お仕事以外の時間はどのように過ごされているのですか?

3人目の子供が今年の4月に生まれて、妻はその子にまだまだ手がかかるので、休みの日は上の子達を連れて公園に行ったりしています。自分一人のプライベートはほぼないですね。ちなみに我が家も全員女の子。三姉妹の長女と結婚してその子供も三姉妹っていう、凄まじい女系の力だなと思っています(笑)。

それは賑やかそうですね。お仕事との切替はしっかりされるのですか?

全然ないです。僕の中では仕事も遊びなんですよね、趣味というか。休みの日でも少し時間があるとすぐにパソコンを開いちゃう。僕が動かないと進まない内容もあるので、翌日にスタッフがすぐに仕事に取り掛かれるように夜のうちに片付けようとすることが多いですね。

毎日、どのようなリズムで過ごされているのですか?

朝は上の子たちを小学校と幼稚園に送ってから仕事に行き、16時半くらいに一旦会社を出て、お迎え。18時くらいからご飯を食べて、お風呂に入って、子供たちが眠りについた21時過ぎから22時半くらいまで仕事して……みたいな生活です。

朝も早くから起きていらっしゃるんですか?

毎朝5時起きですね。うちは共働きなので、自分ができることはやる、というスタンスですが、洗濯掃除係くらいしかできていません。洗濯は寝る前に予約しておいて、朝から外へ干して、次は中性洗剤で赤ちゃんの服やタオルなどを洗って、それを干してとか。子供はボロボロとパンや食べ物をこぼすので、朝のうちに掃除機もかけてから出かけます。

すごい。綺麗な時間割のようなサイクルを意識されているんですね。その効率の良さがプライベートだけでなく仕事や問題解決の場面で生きているような気がします。

僕はせっかちで無駄が嫌いなんです。さまざまな場面でどうやったら最短ルートでできるのか、みたいなことをすぐに考えちゃいます。

プライベートも含めてこれからチャレンジしていきたいことはありますか?

実は以前から、子ども食堂の活動に毎月寄付をしているんです。今はなかなか身体が空かなくて手伝いにいけていないのですが、うちの子供たちと一緒に、定期的に参加したいなと思っています。多いときで子供60名、親御さん40名ほどの100名規模の時とかもあって、大人の人手も足りていないと思うんですよね。

お子さんたちにも参加して欲しいという願いはどこからきているのですか?

多くの人と触れ合うことで、いろんな人がいて、いろんな人生があって、それぞれに生活がある、その違いを自分の子供たちにも知って欲しいなって思っていて。普段お腹いっぱいに食べられない子が身近にいるということや、一人ひとりの考え方の違いなどを肌で感じてもらえたらいいなと思っています。そして、そういう問題はどうやったら解決できるのか、という事も子供目線で考えてもらいたいです。

これからの世代に引き継いでゆくことはどんどん大事になってゆきますよね。最後に、個人的にこの先の未来で気になってることは何かありますか?

貧困問題ですね。生きるか死ぬかという世界が日本にもあるんだということを、もう少し声を大にして伝えていきたい。実際、アメリカとかの大富豪の人たちってすごい寄付をするんです、いろんな所に。でも日本では寄付はあんまり一般的じゃない。節税対策とかそういう悪いイメージを持っていらっしゃる方もいて……。

確かに、寄付とかのハードルは高い印象がありますよね。それこそクラウドファンディングとかちょっとまた違った視点で今出てきてますけど、応援する側としてはどんどん共感する人がいて、便利な物ができるなら良いことじゃんって思う部分もあれば、そこに出してるって思われるのが嫌だとか、自分たちの力でやりきりたいという人もいたりとかで、その価値観が揺れている気がしますね。

ちょっとずつでいいと思うんです。コンビニのレジの横にある募金箱に小銭を入れてみるとか。もっと気軽に、誰かが困っていたらお互い様の精神で、助け合いをしやすい環境を築いていくアクションをしていけたらいいなと思っています。

 

Interview & text Mikiko Ichitani Photography Yu Inohara

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Mikiko Ichitani
市⾕未希⼦(いちたに・みきこ)
1989年⽣まれ。美容専⾨学校卒業後、都内の美容室にて7年間勤務。2017年にWEBのファッションメディアの編集者へ と転向。前職の経験を活かし、美容特集の企画・編集にも携わるほか、クライアントへの提案や、制作案件の進⾏など 様々な業務を担当。2021年独⽴し、フリーランスとしてさまざまな形で編集に携わる。

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